タイのスープといえばトムヤムやグリーン カレーなど激辛スープを思い浮かべますが、辛くないスープも普通に食べられています。今回はその辛くないスープ、ケーン チュードの種類などについての話です。
辛いスープと辛くないスープ
タイのスープ、汁物は辛子ペースト(プリック ケーン。唐辛子やニンニクを手臼で搗いて作る)を使うものと使わないものに大きく分けられます。
辛子ペーストを入れるスープ、タイ語でいうケーンはほぼすべて辛いスープです。
日本で人気のグリーン カレー、レッド カレーなどがこれにあたります。
日本人はカレーと呼びますが正しく言えば辛いスープ、汁物です。
一方、辛子ペーストを使わないものは基本、辛くありません。
辛くないスープをタイ語でトム チュードもしくはケーン チュードと呼びます(日本語サイトではゲーン チュー、ゲーン ジュートなどと表記)。
ケーンは汁、トムは煮る、チュードは薄い、の意味です。
上記意外にトム・・・と呼ばれるスープ類があり、これには辛いものと辛くないものが混在しています。
おなじみトム ヤム、トム カー カイなどは辛いトムの代表です。
辛くないトムにはトム チャプチャーイ(チャプスイ)などがあります。
まとめ
・ケーン = 辛いスープ。
・ケーン チュード、トム チュード = 辛くないスープ。中華風澄まし汁。
・トム・・・ = 辛いものと辛くないものが混在。
タイの辛くない有名なスープ
辛くないスープが欲しい場合、ケーン チュードを選択することになります。
ケーン チュードは中華風の澄まし汁タイプがほとんどなので辛いものが苦手でも安心です。
以下は代表的なケーン チュード。
【春雨のスープ】 ケーン チュード ウンセン
挽肉で出しを取り春雨を入れて煮たスープ。
ほとんど中華の世界だけれどポピュラーな料理で家庭でもよく作られる。
豆腐のスープと並ぶ日本人に人気のスープ。
本来は、湯葉、きくらげ、スルメ、干したゆりの花芯などを具にしていたのだけれど近年簡素化している。
【苦瓜のスープ】 ケーン チュード マラ ヤッサイ
くりぬいたゴーヤに挽肉を詰めて煮たスープ。
苦味好きにはたまらない一品。
ゴーヤはタイでもポピュラーな野菜。
詰めた肉がどこかにいってしまった苦味が苦手ならくりぬいたキュウリに挽肉を詰めて煮たスープ、ケーン チュード テーンクワー ヤッサイもある。
ヤッサイというのは「押し込む、詰める」の意味。
【冬瓜のスープ】 ケーン チュード ファック キオ
冬瓜を挽肉、もしくは骨付きの肉とともに煮たスープ。
冬瓜自体は茫洋とした味なのだけれど品のある甘味がにじみ出る。
正直な話、スープで一番おいしいのはボルシチでもブイヤベースでもトムヤムでも味噌汁でもなく、冬瓜のスープではないかとぼくは思っている。
こんなにシンプルでこんなに奥深くこんなに飽きのこないスープはほかにないのではないだろうか。
一推しのスープです。もちろん出来不出来はあるけどね。
【豆腐のスープ】 ケーン チュード トーフー ムーサップ
厚手の中国海苔を散らした豆腐と豚挽肉のスープ。
中国海苔はケーン チュードによく使われる食材。
日本人の大好きな海苔と豆腐の組み合わせとあって人気のスープ。
タイの辛くないスープといえばこれを挙げる人が多い。
ただ残念なことに近年は海苔を入れないレシピが増えている。
【タムルンのスープ】 ケーン チュード パック タムルン
パックケーブ(タムルン。ヤサイカラスウリ)は庭や路傍、至る所に生えているツル植物。
タイではこれの新芽や若葉、柔らかい部分を食用にする。
山菜ならぬ庭菜。最も身近な野生の食用植物といえるかもしれない。
食べるものに困ったときは庭の片隅に生えているやつを摘んで惣菜にすれば良いのだから最高。
味は少しキュウリキュウリの風味。悪くない。
【キノコのスープ】 ケーン チュード ヘッド
フクロタケ、シイタケ、エノキタケなどを具にしたスープ。
近年はエリンギなども使われている。
最もおいしいのはヘッド コーン、シロアリタケと呼ばれるシロアリの巣から生えるキノコのスープ。
これがメニューにあれば即注文。
でも300バーツぐらいすることもあるからよく値段を確認のこと。
【タケノコのスープ】 ケーン チュード ノーマーイ
タケノコはほぼ年間を通して出回り日本以上によく食べられている。
タイでは地上に伸びた竹の目先を折ったタケノコが一般的だけれど、これはパイワーン(甘竹)という掘って採るタケノコをスープにしたもの。名前の通りほんのりした甘味と香りが特徴。
日本料理と言われても違和感がないくらい馴染みやすいスープ。
【高菜のスープ】 ケーン チュード パッカードーン
パッカードーンはパッカードキオ(Brassica juncea インディアン マスタード、ようするに芥子菜)を塩とご飯粒で発酵させたもの。
日本語ではよく「高菜の漬け物」と訳される。
その高菜を煮たスープ。かなり塩味が効いている。
春雨のスープのレシピ
参考までに春雨のスープのレシピを載せておきます。
ケーン チュードは下味をつけた肉を煮て出しをとり具を入れるのが基本です。
材料 5~6人前 所用時間15分
・豚挽肉 ------ 200g
・白しょう油 ---- 大さじ2 (肉の下味用)
・コショウ ----- 小さじ1/2 (肉の下味用)
・戻した春雨 ---- 1カップ
・タマゴ豆腐 ---- 2本
・ニンジン ----- 1/2 輪切り
・白菜 ------- 4枚
・スープ ------ 4カップ
・白しょう油 ---- 大さじ3
・コショウ ----- 小さじ2
・砂糖 ------- 小さじ2(好みで)
・タイネギ ----- 2本
・パクチー ----- 2本
・パクチーの根 --- 2本
・揚げニンニク --- 大さじ1
作り方
1. 挽肉に白しょう油とコショウで下味をつけよく混ぜ合わせる。
2. スープを沸かしパクチーの根を入れる。
3. 肉を適当な大きさにすくって投入、続いてニンジン、白菜を入れる。
4. 沸騰してくれば白しょうゆ、砂糖、コショウで味付け。
5. タマゴ豆腐、春雨を投入。
6. ネギ、パクチー、揚げニンニクを散らしてできあがり。
*****************
ケーン チュードとトム チュードの違い
辛くないスープはタイ語でケーン チュードもしくはトム チュードと呼ばれる。
この違い、分かるだろうか。わかるはずないよね。
タイ人でも違いを明確に説明できる人は少ない。
簡単に言うとどちらも意味は同じ。
でも現代の学士院タイ語辞典にはケーン チュードしか載っていない。
ということはケーン チュードが正しい言葉。トム チュードは俗語ということになる。
実際、バンコク周辺では一般にケーン チュードが使われ、トム チュードという言葉は他県出身の人から初めて聞いたという人もいるそうだ。
ところがところが、この説明ではつじつまが合わない料理がたくさんある。
たとえば日本人の好きなトム カー カイ(ココナッツとガランガで煮込んだ鶏)やトム チャプチャーイ(チャプスイ)。
これらをケーン カー カイ、ケーン チャプチャーイと呼ぶことはない。
なぜだろう。
こんな話興味がないだろうから結論だけ書く。
*ケーンとは
唐辛子、カピ、シャロット、ニンニクなどを臼で搗いた辛子味噌(クルアン ケーン、プリック ケーン)をまず炒め、野菜、魚、肉などを入れて煮た料理。
*トムとは
湯を沸かし野菜、魚、肉などを入れて煮た料理。
ようするに辛子味噌を使ったスープがケーン、使わないスープがトムということ。
では、なぜ辞書にはケーン チュードだけが載りケーン チュードの方が一般的なのか。
実は、昔使われていたのはトム チュードの方で、それからケーン チュードという言葉が派生し、ついには立場が逆転してしまったらしい。
学士院のタイ語辞書にケーン チュードしか載っていないのは現在使われている語の意味のみを編集しているためである。
従って、現在のケーン チュード、辛子味噌を使っていないので本当はトム チュードと呼ぶのが正しい。
でもこんな事情知っているタイ人はほとんどいないからやっぱりケーン チュードと言った方が通りがよさそうだね。
ちなみにケーンという語、中国語の羹(あつもの)に関係があるらしい。
コメント