タイ焼き肉界の東の横綱が豚焼き肉(ムーヤーン)だったとしたら西の横綱は串焼き豚(ムーピン)。タイ人のこよなく愛する料理で日本人のファンも多い。そのムーピンのおいしさ、食べ方などについての話。
タイの串焼き豚ムー ピン
タイに日本風の焼き鶏はないけれど、焼き鶏のように串に刺して焼いた焼き豚、ムー ピンはある。
路傍のあちこちで見かけるムーピン屋は日本の焼き鶏屋の店先そのままの光景。
こんがり焼けた肉。胃袋を直撃する匂い。立ち上る紫煙。
本当にうまそうなんだよね(実際うまいんだけど)。
必要がなくてもついつい買ってしまいそうになる。
下味にヤシ砂糖とココナッツミルクを使っているところがタイ風だけれど、味のベースは白醤油。
日本人好みのうま味と甘味が前面に出た味付けでとても食べやすい。
ムーピンはモチ米と食べる
ムーピンはうるちではなくモチ米と食べるもの。
モチ米はムーピン屋でムーピンと一緒に売っている。
ムーピンは1串10バーツ前後。
モチ米は小さなビニール袋入りでこれも10バーツぐらいかな。
かなり小さい袋なのでがっつり食べたい人は3袋ぐらい必要になる。
ムーピンと袋入りモチ米の組み合わせのよい所は食器がいらないこと。
袋に手を突っ込んでモチ米を頬張り串の肉をかじる。食べ終われば串と袋を捨てるだけ。
手もそんなに汚れない。むしろモチ米で手がきれいになるくらい(笑)。
学校、職場、乗り物の中とか、海、山、外出先で食べるのにとても便利な簡易食事セット。
この手軽さがムーピンの愛される理由の一つだろうと思う。
ムーピンに熱々のもち米。必要最小限の神メニュー。
ムーピンはタイ人のソウルフード
ムーピン屋は朝早くから店を開いている。
通学通勤途中の人たちが立ち寄って買うからだ。
ムーピンとモチ米を朝食、あるいは昼食の弁当にする人は少なくない。
子供たちが歩きながらムーピンを食べる姿もよくある朝の光景だ。
タイ人はムーピンで育つ、といっても過言ではないほどムーピンはタイの人たちに愛されている。
簡単でもおいしければいいのだ
ムーピンには秘伝のタレとかなくて、けっこう簡単につくれてしまう。
「日本の料理は総じて味が複雑で、何をどうしているのかわからないけど、タイの料理は単純だから食べただけで材料や調味料がすぐにわかっちゃう。底が浅いんだよね」
という人がいるのだけど、問題は複雑かどうかじゃなくておいしいかどうかなんだ。
同じおいしいなら簡単に作れた方がいいに決まってるじゃない。
ともあれ、ムーピンと日本の焼き鶏は東洋における串焼き肉の最高傑作じゃないかと思う。
ムー ヤーンとムー ピンの違い
ムー ヤーンとムー ピンの違い、わかりますか。
ムー ヤーンは豚肉を塊ごと焼いたもの。
ムー ピンは豚肉を小さく切り、串に刺して焼いたもの。
ムーは「豚」、ピンとヤーンはどちらも「焼く」の意味だけど、大まかな違いは素材の大きさ。
小さく切ったものを単体で焼くのがピン。丸ごと焼くのがヤーン。
切った肉でも塊や韓国焼肉のようにどかっと焼く場合もヤーン。
ということです。
本場ムーピンのレシピ
材料
・豚肉 600g
・ニンニク 5 片(大)
・粒コショウ 大さじ 1
・白醤油 大さじ 3
・シーズニングソース 大さじ 2
・ヤシ砂糖 大さじ 3
・ココナッツミルク 1/3 カップ
作り方
・肉を適度な大きさに切る。
・ニンニクの皮を剥き刻んで粒コショウとともに臼で細かく搗く。
・搗いたものを肉に加え、ココナッツミルク大さじ3と調味料をかけて肉とよく混ぜる。
・3時間ほど寝かせる(多分冷蔵庫)。
・串を打つ前に串を30分ほど水に浸けておく(串が燃えないそうだ)。
・串を並べて残りのココナッツミルクを塗り、焼く。
ここではココナッツミルクを使うレシピを訳したけれど、使わなくてもよいと思う。
トラン県の丸焼き豚
有名なリゾート、プーケットのさらに南。
エメラルド色の海中洞窟やボンベをつけて挙式する海中結婚式で外国人に人気の観光地、トラン。
この町、中国系が多く「食い倒れの町」とも言われる。
いろいろおいしいものがあるのだけれど、とりわけ有名なのが「トランの丸焼き豚(ムーヤーン トラン)」。
30キロから40キロの豚を使い、中国の調味料、五香粉などで下味をつけた後、専用の炉で焼き上げる。
現地の人は朝起き抜けに、このこってり焼き豚をコーヒーとともに朝食として頂くという。
タイの人たちの胃袋は鉄でできているのかもしれない。
そうでなきゃあ唐辛子なんてかじれないよね。
それとも唐辛子をかじっているうち胃袋が鍛えられたのかな。
気になるお値段、1キロ500バーツ前後。
中には豚の頭をお土産に買っていく人もいるという。
「はい、お土産」
って豚の頭を渡されたらちょっとびっくりしそう。
トラン丸焼き豚の歴史
百年ほど前、中国の広東から新天地を求めて多くの人々が船で南下した。
トランにたどり着いた彼らは苦労して野を切り開き胡椒やゴム栽培に従事する。
ある日その中にいた元豚焼き職人がお供え用の豚を焼いたところ大評判。
その職人がトラン豚の元祖になったのだという。
トランの人たちが朝からボリュームのあるものを食べるのもゴム園などで肉体労働に従事するものが多かったからだといわれている。
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