「今日のおかずは何じゃらほい」
ガスコンロの上にあった鍋のふたを開けてみたら、
「うわっ!」
鍋一杯の白い芋虫。
はばかりながらこのわたくし北タイに住んで三十数年。オケラだて芋虫だってバリバリやっちゃう。
でもそれは調理済みのやつが食卓におかれた状態で、
「ああ、おれっち、これから芋虫ちゃんを食べるんだ」
と、それなりの心がまえができている。ふたを開けていきなり
「ワッ!」
には意表をつかれた。
今まで完成品を頂くだけで知らなかったのだけど、芋虫は一度水煮してから炒るらしい。その製造過程のやつに出くわした次第です。
この芋虫、標準タイ語でロットドゥワン(急行列車)、北部方言でネー、日本語で竹虫という。
ネーは蛾の幼虫で、竹の節の中に潜り込み、中の白い膜のようなものを餌に育つ。
ネーちゃんはとてもうまい。タイの虫の中では一番。普通の食材と比べてもかなり上の方だと思う。
芋虫、といえば、なんかこう、噛んだとたんプチュウウウと青汁が出てきそうやないですか。あにはからんや、こいつの中はカラッポでパリっとしてる。
味は竹藪のポテトチップ。いや、動物質の滋味と深みがあってポテトチップよりはるかにおいしい。白かった体色も炒るとこんがりきつね色に変わり見るからにおいしそう………でもないか。
とにかく思い切って一度手をつけたら、止められない止まらない。
カルビーのポテトチップと芋虫チップ、好きな方を選べ、といわれたらぼくは躊躇いなく芋虫チップを選ぶ。
ぼくだけでなく、たとえば、タイ料理なんて食べたことのない純日本的な味覚を持っている人に目隠し(ここが大事)をして食べ比べてもらっても芋虫を選ぶに違いない。
問題は見かけだけだ。
「その見かけが大切なんじゃないか」
といわれればそれまでですけどね。
「日本人は食べ物を目で食べるが私たちは舌で食べる」
とタイ人(特に中国系)はよくいいます。
ネーは牛肉や豚肉よりもずっと高い高級食材である。だから北部の人たちは一匹ずつ惜しむようにちびりちびり、もち米と頂くのだけど、家ではどさっとつくって、レンゲでがばっとすくい、口いっぱいにネーを頬張って食べる。
「ほらほら、おとーさん、そんなに詰め込まないで。芋虫が口からはみ出てますよ」
とか言われながらね。
うわあ。
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