憧れの田舎暮らし、
なんて都会の人はよく口にしますが、
なかなかどうして田舎の生活は大変。
便利な町と違い、必要があれば
電気屋にも水道屋にもなります。
今回は獣医のまねごとをする
はめになったときのお話。
私は獣医
すっかり忘れていたのですが、今月は一年で一番憂鬱な月。犬たちに狂犬病のワクチンを注射しなければならない月です。
狂犬病は発症すればほぼ間違いなく死ぬ怖い病気。
タイでは毎年、狂犬に咬まれて亡くなる人が何人も出ています。
問題解決のため政府は20年ほど前からワクチン接種を促進。
ぼくらの村でいうと、獣医が各家を回ってペットにワクチンの注射をしてくれました。
ありがたいことです。
でもそれは例によって最初だけ。面倒だったのでしょうね。
次の年は
「注射してやるから各自、犬猫を寺まで連れて来い」
というお触れがでました。
まったく、タイの進歩発展を阻む最大の問題はキーキアド(めんどくせー)です。
家は絶えず4匹ほどの犬を飼っているのですが、庭で放し飼いにしていて首輪も鎖もつけたことがありません。
だもので、首輪をつけ鎖に繋いだ段階で犬たちはもう狂ったように暴れ、牙をむいてぎゃんぎゃん鳴き喚きます。ひどい罰でも受けているように感じるのでしょう。
今度はその犬たちを抱きかかえトラックの荷台に乗せるのにひと騒動。
そしてお寺では村中の犬猫が、わんわん、きゃんきゃん、にゃあにゃあ。
おまけに人間の子供までが、わーんわーん。たまりません。
しかし、それすら面倒になったらしく、
「注射器と薬をやるから、おめえら勝手に打ってくれ」
に変わりました。
いきなり「犬に注射打て」といわれてもオラ困るだよ。
でも、いくら困ろうがどうしようが打たないわけにはいきません。
田舎に住むということはこういうことです。
必要があれば電気屋にも水道屋にもなります。
覚悟を決めて打ちました。もちろん生まれてこの方注射など打ったことはありません。
一人ではやり辛いので、つれあいに犬を押さえ込ませ、首の皮をつまんで針をぶすり。ちゅーっ(液を注入)。
犬たちはおとなしく注射を打たれました。
わっ、オラ天才かも。
針を刺すときにちくりくる以外、犬は痛みを感じないようです。
ぼくは自信をつけ、
「なに、注射?どんとこい!」
でしたよ。最初の数年は。
ダルメシアンの次郎は、走れば地響きをたて、立ち上がればぼくの肩に前足を置ける体格のよい犬です。
ある年、その次郎にワクチンを打ちました。ブスッと。
「わぎゃあああああ!」
次郎はわけのわからぬ凄まじい叫び声をあげ、押さえていたつれあいとぼくを跳ね飛ばして洗濯機の陰に潜り込みました。どうやら針が肉に突き刺さったようです。
「次郎、次郎。こっちおいで」
次郎は白目を剥いてガタガタ震え、夕飯まで洗濯機の陰から出てきませんでした。
以来、次郎は注射器を見ただけで血の気が失せます。
ダルメシアンって頭がいいんですね。それに感情がとても豊か。雑種ではないことです。
問題は次からのワクチン。
あーた、注射嫌いのダルメシアンに注射を打つことがどんなに大変かわかりますか。
なだめすかしてぶるぶる震える大きな体を二人がかりで押さえつけ、弛ませた皮膚の下に的確に針を潜りこませて筋肉に当たらぬようワクチンを注入しなければならない。
いくら飼い犬とはいえ、痛けりゃ、やつも必死で抵抗する。
犬にこちらを傷つける意思はなくても咬まれたら指の一本や二本は持って行かれるに違いない。
また失敗したらどうしよう。
あれ以来こっちもかなりのトラウマ。
年に一度のことだから技術が上達するはずもありません。
「こんなことなら麻薬でもやって注射器の扱いになれておくんだった」
マジ思ったくらいです。
でもそれ以来、へたをすることはなかったのですが、数年前、リンリンという雑種に注射したとき、針に脂肪でも詰まったか、途中で液が入らなくなりました。長引かせると暴れるので、
「かまうものか。えい!」
力任せにぐいっとシリンダーを押し込むと、
「わぎゃああああああ!」
リンリンが絶叫して飛び上がり、とたん、ぼくの顔に何かがどばっとかかりました。
針は注射器から外れひん曲がった状態でリンリンに突き刺さっています。
どうやら針が抜けたさい、弾みで圧のかかった注射器からワクチンが顔に放出されたようです。
いやー、怖かっただよ。狂犬病になってしまうんじゃないかとずいぶん心配しました。
それなのに、
「あんたはもともと狂犬のような人だからワクチンでもなめれば少しは大人しくなっていいのよ」
つれあいは面白そうに笑うばかり。
しかし、お馬鹿な犬って幸せですね。
翌年になるとそんなことがあったことなどけろっと忘れて注射を打たれています。
今朝、有線放送で、
「今年もお待ちかね、狂犬病ワクチン接種のときがきただよ。おめえら、寺まで取りにこい」
お達しが出ました。
注射はどうにか無事終了。やれやれ。
狂犬病ワクチンの副作用で成長が止まる?
生後6ヶ月のクロというメス犬にワクチンを注射をしたところ、数日後、四肢が麻痺しました。
なんと言うか、市場で売られているカイヤーン(焼いた鶏のひらき)状態。
毎日、立たせて糞尿させてエサを食べさせてやらなければなりませんでした。
「えー、もしかしてずっと介護?たまんねえなあ」
と思っていたら、少しずつ回復して1週間程度で歩けるように。
でも、相当身体に悪かったみたいで、以来あまり成長しませんでした。
そして数ヵ月後、交尾して子犬を3匹出産。
何十匹も注射してきましたが、こんなことは初めて。
調べたら狂犬病のワクチンも絶対安全、というわけではないそうです。
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