日本でも「とてもおいしい」と好評のタイカレー。でも本場のタイカレーはもっとおいしい、と言いたいところだけれど、実はタイカレー、段々まずくなっている。その理由は何なのか、本当においしいタイカレーとはどんなカレーか、という話。
日本のタイカレーがまずい理由
まず、日本では、グリーンカレー(ケーンキオワーン)、レッドカレー(ケーン ペット)、イエローカレー(ケーン カリー)がタイカレーの代表とされているわけだけれど、このうち本当のカレーはイエローカレーだけであとの2つはカレーではない。
でも日本のみなさんにはどうでもよいことだと思うので、ここではとりあえずみなカレーと呼んでおく。
さて、日本のタイカレーがまずい理由。
3つのカレーに共通しているのはどれもココナッツミルクを使うことである。
この手の料理をタイ語でココナッツミルク汁(ケーン カティ)と呼ぶ。
そして日本のタイカレーには生のココナッツミルクを使わない。
まずさの原因は、代用ハーブを使っている、生のカレーペーストを使っていない、タイ米を使わない、水が軟水、など、色々考えられるのだけど、一番の理由はこれだと思う。
タイでもまずくなりつつあるカレー
実は本場タイでも近年のタイカレーやカオソーイはまずくなっている。
家の食卓に頻繁に出てくるタイカレーやカオソーイもやっぱりまずい。
何がどうまずいのかと問われるとちょっと困るのだけど、胸につかえるような感じがして喉をするする通っていかない。
途中で食べるのが嫌になる。そんな感じ。
昔はおいしく食べられたのに、近頃は出される度に愚痴るようになった。
その原因には薄々気づいている。
タイでも生のココナッツミルクを使わなくなったからだ。
ココナッツミルクの搾り方
というわけでその仮説を実証すべく、熟したココナッツを削ってココナッツミルクを搾りケーン ペット(レッドカレー)を作ってみた。
実際に作ったのはタイ嫁でぼくは監督だけどね。
まず、よく熟れた焦げ茶色のココナッツの外皮をナタなどできれいに剥ぎ、硬い内皮を二つに叩き割る。
タイ嫁は慣れた手つきでやっているけれど、普通の人は既にここまでの処理でお手上げに違いない。
硬い内皮の内側には白い胚乳が厚く堆積している。
これをウサギ(北部ではネコ)という削り器の刃にあてこそぎ落とす。
削ったココナッツに湯を加えて最初に搾ったものがココナッツミルクの1番搾り(フアカティ)。
その搾り滓に湯を加えて搾ったのが2番搾り(ハーンカティ)。
いやあ、実に20数年ぶり。
昔はこうやって料理を作る度にココナッツを削ったものだ。
本当においしいタイカレーがそこにあった
ココナッツミルクのみを使い、普通の水は加えずできあがったケーンペット。
一口食べたとたん、昔の味が舌に蘇り、今は亡き義母のココナッツを削る姿やまだ幼かったタイ嫁の弟妹たちが走り回る情景が脳裏に浮かび涙があふれた。
・・・なんてことは残念ながら起きなかった。
むしろ、
「ええ!こんなんだったっけ?」
というくらいあっさり拍子抜けの味だった。
ところが、やべえ。スプーンが止まらない!
折りしもタイ嫁とは冷戦中。
無言で機械仕掛けの人形のように爺婆がただひたすら汁をすする。不気味だ。
ううん。これがココナッツミルクの真の実力か。
やっぱりケーンがまずくなったのはココナッツミルクが原因だった。
まっとうに作ったケーンはタイ嫁の腕でも本当においしい。
今ではこのような本格的な搾り方をする人はほとんどいなくなってしまった。
日本もタイも、市販の缶、パック入りを使うのが一般的である。
ちなみにこれらは一番搾りなので2番搾りが欲しいときは水で適当に薄めて使う。
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本場タイでおいしいタイカレーを食べたいと思っているみなさん。
本当においしいものが食べたいのであれば、ポイントはココナッツですよ。
良心のある料理人はきっと生ココナッツに拘っているはずです。
生を使っているかいないかは食べ比べてみればけっこうわかります。
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