タイ産コーヒー豆はたいしておいしくないと思い込んでいたのだけど、ある日偶然手に入れた豆の素晴らしかったこと。その香り、そのコク。タイのコーヒー豆自体はとてもおいしい。問題は焙煎と飲み方にあった、という話。
ブルーマウンテンとネスカフェどちらがおいしいか
わたくし、中学生の頃からレギュラーコーヒーを飲み始めコーヒー歴40年以上。
しかも高校卒業まではブルーマウンテンオンリー。
それをサイフォンで入れて毎日飲んでいた。エヘン。
アルコールランプの青い炎、ぶくぶく沸騰した水がしゅわっと吸い込まれていく様、思い出すなあ。
以来ずっとレギュラーコーヒーを飲み続けたわけだけれど、ぼくがタイに住み始めた頃レギュラーコーヒーを飲む人はほとんどおらず、コーヒー豆の入手も難儀だったのでインスタントを飲むほかなかった。
ブルーマウンテンからいきなりインスタント。
まずさに涙したかというとその逆。
当時居候していたタイ嫁の実家にはまだガスがなく、近くの河原で拾ってきた薪で煮炊きしていた。
日本では電子レンジが普及して久しい時代にだよ。
コーヒーを飲むには火を熾してもらい七輪に鍋をかけて湯を沸かさなければならなかったわけだけど、そうやって入れた1杯のインスタントコーヒーは本当にうまかったなあ。
身体の隅々にまでカフェインが染みこんでいくようだった。
1杯の重さが違うものね。
タイのロブスタ栽培の歴史
タイのコーヒーは1904年頃、マレー方面から持ち込まれたロブスタ種を南部ソンクラー県のイスラム系タイ人が栽培したことに始まる、と言われている。
しかし、その後コーヒーの需要が高まっても栽培は広まらず、国内生産量の十倍近くのコーヒー豆を輸入しなければならなかった。
この不均衡を憂慮した王室はコーヒー栽培を促し、やがては輸出できるまでに拡大する。
*コーヒーは大きくロブスタ(カネフォラ)とアラビカ種に分けられる。
ロブスタ種は病気に強く平地でも栽培ができる反面、味に癖があるため大半はインスタントコーヒーやブレンドに使われる。
逆にアラビカ種は病気に弱く熱帯の高地でないと育たない気難しい性質を持つ反面、風味が豊か。レギュラーコーヒーのコーヒーはほとんどこの種。
タイのアラビカ栽培の歴史
味の良いアラビカ種がタイ北部で本格的に栽培され始めたのはずっと後の1980年代。
ちょうどぼくがタイに暮らし始めた頃だ。
かつて北部山岳地帯は多くの山岳民族が暮らし、ケシ(アヘン、ヘロインの原料)の栽培で生計を立てていた。
山岳民族だけではない。
ぼくらの村もお薬関係の人がけっこういた(大半は捕まり今も刑務所の中)。
タイのお薬密売事情が日本と異なるのは、反社会勢力とか半グレとかではなく、ごく普通の人が関わっていることだ。
それはともかく、王室はケシに代わる換金作物として山地特有の冷涼な気候を利用したアラビカ種コーヒーの栽培プロジェクトを促進。それが根付いて今に至る。
現在タイがコーヒー生産国として名を上げ大きな利をもたらしていることを考えると実に素晴らしいプロジェクトであった。
王室の偉大な功績の一つに数えても良いのではないかと思う。
*コーヒー栽培プロジェクトではぼくらの村にまでコーヒーの苗木が配られた。
家も2本の苗木を頂き、立派に育ったものの洪水で水に浸かり枯れてしまった。
見渡しても今もって栽培しているのは標高の高い山の上の方でやはり平地での栽培は難しいようである。
北部のコーヒー豆は本当においしいのか
経済が発展し生活に余裕ができるようになるとタイでもレギュラーコーヒーを飲む人が増え、現在スーパーには数多くのタイ産コーヒーが並べられている。
でも残念ながらおいしいコーヒーがない。
というより口に合わないのかな。
評判のいい北部産コーヒーもぼくにはまずく感じられる。
タイ人は真っ黒で濃厚なコーヒーを好むもので概して煎り過ぎているのだ。
問題は焙煎にあった
北部産コーヒーはおいしくない、と長年思い込んでいたわけだけれど、先日たまたますごくおいしいコーヒーに巡り会った。
初日の香りのよさといったらなかったよ。
タイ嫁が珍しく早起きしてきて、
「コーヒーの香りで目が覚めた」
とぼやいたくらい。
ところがそれから数週間後、偶然もう一度手に入れたものを飲んでみると、味は悪くないものの最初のものとずいぶん違ってがっかり。
ここに至ってようやく気づいた。
北部の豆自体は悪くない。焙煎と鮮度が問題なんだと。
コーヒーツウには当たり前すぎて笑う気にもならない話である。
コーヒーをおいしく飲みたいなら自分で挽け
今までおいしいコーヒーを求めて世界各国の市販コーヒーを飲んでみた。
スリランカ、ベトナム、インドネシア、台湾、ミヤンマー、オーストリア、イギリス。
娘が旅行好きなものでどこか行く度にその土地のコーヒーを買ってきてもらったのだけれどどれもいけなかった。
当前だよね。挽くのが面倒なもので粉を買ってきてもらったのだから。
粉コーヒーは挽き立てでないとならないし、2日もすればその味と香りは失われてしまう。
おいしいコーヒーを求めるなら焙煎して日にちの経っていない豆でないとならない。
こんな、コーヒーツウなら誰もが知っていることを棺桶に片足突っ込んでいる今になってようやく知った。
でも、粉のレギュラーコーヒーがあれだけ売れているということはぼくだけでなく多くの人が誤解しているのだと思う。
今からでも遅くはない。
後一手間。本当に後一手間、コーヒー豆を挽く、という行程を付け加えれば劇的にコーヒーをおいしく飲むことができる。
コーヒーを飲むのに最低限必要なのはコーヒーミルである。
しかし、ここでまた問題。
ぼくの住むところはコーヒーの産地でありながら好みの煎り加減の新鮮なコーヒー豆を手に入れるのが難しい。
というわけで自宅焙煎を始めた。
なければ自分で作れ。タイの田舎に暮らして学んだことの一つだ。
この話はまた改めて。
コメント
初めまして。
タイで売っているコーヒー豆はどれも真っ黒、煎り過ぎ、オコゲを食べると癌になる。
多いですね。真っ黒け。でもずいぶん良いものも出てきてます。若い世代に期待しています。