タイとつきあう上で日本人が必ず遭遇し、頭をグラグラさせられるのが時間と約束に関する問題。なぜ、タイの人たちは時間を守ったり約束を守ったりすることが苦手なのか。タイとのつきあい方 第7弾。
日本人と付き合うのは疲れる
娘のワカメが日本に留学していたとき送ってきたメールです。
「Mさんたちと1時30分に待ち合わせしました。でも1時25分にはみんなそろってました」
「日本人との食事は難しい」
「ゆっくり食べると『おいしくなかったら、無理して食べなくてもいいよ』と言うし、逆にパクパク食べたら『話聞いてない』という。どうしたらいいか分からない」
「日本人といるのは本当に疲れる。ストレースも積もる。肩がこってしまった。まだ若いのに悲しい」
まったく、どうしたらいいんでしょうね。
タイだったら人がどんな食べ方しようが気に留める人なんていないのに。
人を思いやるあまり、かえって相手に窮屈な思いをさせてしまうことの多い日本人です。
約束の時間に対する考え
ワカメは時間前にみんなそろったことにもびっくりしています。
日本では当たり前のことですが、タイでは約束の時間どころか約束を守る習慣もありません。
いや、彼らも心の片隅では、できるなら守ろうとは思っているのですが、何が何でも守らなければならない、とは思いません。
自分の都合次第です。
学校の宿題をするためみんなと九時に会う約束をしたワカメは、遅れないよう一時間半も前に家を出たのに(町まで20キロ以上ある)、全員がそろったのは昼前だった、という経験があります。
ぷりぷり怒って帰ってきたワカメに、
「お前、何年タイ人やってんだ。約束の時間を守るやつがいるか」
と言ってやりました。
ところが、これが遊びに関することだとみんな待ち切れず先に来ていて、
「お前、遅いぞ」
とか言われちゃうのですから困ったものです。
あるある、やっぱりやめた!
でも遅れたって来ればいい方で、ワカメの妹のミカンは、八人の友達と約束を交わし、約束の時間から二時間待っても誰一人来なかったことがあります。
電話するとみんな
「すぐ行く」「今行く」
と答えるのですが、そのうち
「やっぱりやめた」
となりました。
からかわれたのではなく、別に面白そうなことができたり面倒くさくなったり、というよくあるパターンで、それがたまたまミカン以外全員に重なって起きてしまったようです。
約束をするときはみんなすごく盛り上がるのですけどね。
タイ人は断らない
「約束を守らない」 ことはタイに住んでいる日本人誰もが直面する大きな壁の一つで、乗り越えられずにぶつかってひしゃげる人も少なくありません。
ぼくも何度も痛い目に遭いました。
たとえば、女の子を遊びに誘うとします。
彼女たちはけっこう気安く誘いにのってくれます。
タイでは申し出を断られることなんて滅多にありません。
でも「やった!」と喜ぶのはまだ早い。
彼女が本当に現れるかどうかは極めて不透明なのです。
つまり、約束の日、時間になっても来ない。
で、苛立って電話をすると
「マイ ワーン(暇がない、忙しい)」
だって。まいりますよね。
「そりゃ、お前だからだよ」
なんて言わないで下さい。
こんな目に遭っている日本人は本当に沢山いるんだから。
相手の望む返答をするタイ式思いやり
どうしてこういうことになるかというと、タイの人たちには相手の望む返答をする癖があって、誘えばまず断りません。
わざわざ誘ってくれたのに、むげに断るのも悪いな、相手を傷つけたくないな、というわけです。
優しいといえば優しい。
ただ、日本人と違って、その日はほかの友達と約束があり、行けないことがすでにわかっていても、
「行きます。わあ、楽しみだなあ」
と答えるのですから日本人の頭は混乱してしまいます。
事前連絡をしないタイ人
ついでにいえば、女の子を誘って約束通り来たとします。
ところがところがです。
彼女は女友達と一緒のことがままあります(ぼくは友達を福神漬けと呼んでおります)。
「友達と行くね」
と最初から言ってくれればこちらもそれなりの対応の仕方があるのですが、絶対に言いません。
タイでは女二対男一のカップル(?)をよく見かけます。その度、
「ちくしょう!うまくやりやがって」
と羨んだものでしたが、自分も経験するに至り、あれは羨ましいどころか極めて遺憾で不幸な状況であることを思い知らされました。
だってそうでしょう、ご飯を食べるにしろ映画を見るにしろ三人分支払わなければならないし、福神漬け同伴でホテルに入るわけにもいきません。
でも福神漬けが女ならまだいいですよ。
ときどきデートの約束をしながら彼氏同伴、というのはいったいどういうことなんだ。
タダ飯を食べた後「じゃあね」とかいって二人仲良く手をつないで帰っていくのだから頭にきますよね。
できない約束をするタイ人
愚痴はこのくらいにして話を元に戻します。
タイ人の「相手の望む返答癖」のことです。
これが他愛もない約束事に対してであればまだしも、頭がぐらぐら煮えたってしまうのがビジネスに適用された場合。
たとえば、印刷屋のおじさん。
「月末までに仕上がりますか」
ぼくが訊ねると、
「まかせとけ。絶対大丈夫」
自信満々。
でも、その時点でもう不可能なことがわかっているんです。
それでも「まかせとけ」といってくれます。
人の都合を考えるのは苦手
別に悪気があるわけではありません。
これがタイ式の思いやりなんです。
もし「できない」といったら、ぼくががっかりするだろうなあ、と考えてしまう。
ぼくは何度も頼みました。
本当のことを言ってくれ、と。
その方が計画が立って助かるから。
でも無駄でした。
こちらはおじさんの言葉を信じてスケジュールを立て、納期が遅れるとどんなに迷惑するか、いくら損をするかを腹立ち紛れに説明するのですが、ぼくがなぜ怒るのかおじさんには理解できません。
目の前の人を傷つけたくない、という思いやりはあるのに、もう一歩踏み込んで、人の都合を考えることは苦手なのです。
つまり何事も相手の都合を考えず、自分の都合だけでやってしまう。
この辺がタイらしいというえばタイらしい。
切れる日本人、許すタイ人
しかし、約束を破られると、日本人はもう間違いなく腹を立てるのに対し、タイ人は日本人ほどには腹を立てません。
自分の都合で約束を簡単に反故するかわり、約束を破られてもチュエ マイ ダイ(仕方ない)と許してしまうわけです。
タイ社会はこういう風に成り立っています。
約束を真に受けるな。今回の教訓です。
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